遺産

 きみは誰よりもぼくの気持ちがわかるし、ぼくは誰よりもきみの気持ちがわかる。
 でもぼくたちは世界中のどんなふたりよりも、お互いの気持ちを伝え合うことができなかった。
 わかりすぎるがために。
「さよなら、さようなら」
 フェンスの上にとまったカラスが話す。
「なにもかもわかられているし なにもかもわかってるでしょ」
 黒い色したあいつがそう言っても、あの人の浪漫は、リアリズムとファンタジーのあいだで揺れている。