バレンタイン・デー

「私はこの三十四歳から三十七歳の三年間で、普通の人が二十代でやらなければいけないことを一気にやった」
「ほう、それはつまり、二十代がくだらなかったってことかな?」
「私の二十代は、人に蔑まれるほどに何もなかったし、羨まれるほどに何かがあった。こんな二十代を持つ自分のことを、後悔と郷愁と誇りの気持ちを持って、今生きている」
「“二十代でやらなければいけないこと”って、例えばなんだい?」
「例えば、里まで降りてくる不埒な野生の猿どもを、本格的な空気銃で追っ払うとかそういうことだ」
「他には?」
「布製のつぎはぎだらけのロケットで宇宙に飛び立つ夢を見ることだ。一人に一機で、飛び立ったのは三人だ。三機飛び立ったことになる」
 彼はそう言うと、立派な空気銃を持って山へ向かった。
「猿どもに目にもの見せてくれる!」
 二十代でやらなければいけないことって、そういうことだろうか? 非常に疑問に思ったが、僕だって人のことは言えない。たいした二十代なんて送っていない。やたらと美化したい十年間ではあるが、人生のどこに“おいしいおかず”が置かれるかは、その人次第だ。
 パンパンパン! と空気銃の音が聞こえる。僕たちの青春はどっちだ?