しとしとと降る雨が大好きな男の子がいる。男の子はいつも部屋の中から、雨に濡れる庭の様子を座椅子に座って見ている。座椅子はもうぼろぼろだ。それに気づいた母親は、ホームセンターに行って新しい座椅子を買ってきてあげる。男の子はとても喜び、そのとき外はしとしとと雨が降っていた。男の子は座椅子を持って庭に下りる。
「ママ、見てて!」
 と、男の子はにこにこしながら言う。男の子は雨でぬかるんだ地面に新しい座椅子を置き、ゆったりと腰掛ける。
「ママ、こんなに楽チンだよ! ありがとう!」
 母親はあっという間に泥だらけになった新しい座椅子を見て悲しく思う。泣きそうになる。けれども男の子の澄んだ笑顔を見て、悲しんではいけないと思う。
「ママも隣に座っていい?」
 と母親は言い、部屋にあったぼろぼろの座椅子を持って庭に下りる。男の子の隣に並んで座る。空からは霧のように細かい雨が降ってきていて、母子の体をしっとりと濡らしている。
「ママ、雨は気持ちいいでしょう?」
「うん、そうね。とっても気持ちいいわ。ママ、今まで気づかなかった」
 この子だからこそ気づくことがあるのだ、と母親は思う。雨に濡れながら男の子は言う。
「ぼくは大きくなったら座椅子になるんだ」
 母親はもう悲しまない。
「そう? 座椅子に? みんなを楽チンにしてあげるのね」
「そう!」
 母子の頭上からは相変わらず細かな雨が降り続いている。その雨は決して止まないし、強く降りつけることもない。