行方不明の森

 深い深い森へ入った。腰まである草むらをかきわけて進み、岩盤の上を歩き、また腰まである草むらを歩く。しばらくしてひらけた場所に出ると、その一画は、周りを広葉樹で囲まれた広場のようになっていた。頭上には緑色の葉が生い茂っていて、その隙間からは太陽の光がサーチライトのように降っていた。いくつかの小さな岩が無造作に転がっていて、身の丈三十センチほどの一輪の花がいくつも咲いている。その花から飛び出した奇妙で美しい胞子は目に見える大きさで中空を飛び交い、太陽のサーチライトを縫うようにして、何匹かのアゲハ蝶が飛んでいた。そこはまるでおとぎ話の戦場。太陽のサーチライトをかすめ飛ぶアゲハ色の戦闘機。地上の花からは七色の対空ミサイル。まるで今までそこにあったのに気づかなかったとでもいうように不意に聞こえてきた音は、ほんとにやさしかった。枯れた大地でさえもそのやさしさに気づいた、あるいは思い出したのか、湧き水を溢れさせた。