だいぶ長く生きている

 もうちょっと難しい音を聴きたい。生意気な十代のころにそんな感想を持っていたブルーハーツを、今朝電車で聴きながら通勤した。今考えたら、なんの取っ掛かりもないところからいい曲を作ることがどれほど難しいことか。指のいたずらでたまたま響いた変な和音、口をパクパクさせているうちに思いついた面白いリズム、爆音でストレス発散しているうちにアンプから出てきた印象的なリフ。そんな偶然に頼ることなく、いい曲を練り上げるってのは、1も2もない0から100を作り上げるようなものだ。
 駅前の家に住んでいる白い犬が、僕が朝通りかかるときに「べー べー」と豚の鳴き声のような音を口から出していた。喉に何かがつまったのか、具合が悪くて吐きそうなのか、何らかの異常が発生しているような音だった。電車に乗らなきゃいけなかったので、何をすることもなく通り過ぎた。少し心配はした。
 帰りに電車を下りて通りかかると、白い犬はおだやかな様子で地面に寝そべっていた。大事にしているらしい木の欠片も側に置いてあった。あの子ももう、だいぶ長く生きている。