ごぶさたです

 久しぶりに良くんに会ったが、ずいぶんとおじいちゃんになっていた。昔は僕の気配を感じると、すぐに嬉しそうに飛び出してきていたが、今日は五メートルくらいまで近づいて、やっと気がついてくれた。それも「わ、びっくりした」という気づきかた。あまり耳が聞こえないのかもしれない。頭を撫でてやると以前は立ち上がってじゃれてきていたが、今日の良くんはずっと静かに、頭を撫でられていた。もう二本足で立ち上がるのがしんどいのだろう。
 良くんというのは、大正昭和を生き抜いてきた元帝国海軍のおじいさんで、作戦参謀という士官であったらしい。階級は少佐、と。ここから作り話に持っていけそうだが今日はやめておく。良くんは近所に住んでいる飼い犬だ。飼い主さんによると「良い子なので良」ということらしい。
 初めて会ったのは、僕が東京から福岡に帰ってきた日。だから十三年前になる。そのころすでに子犬ではなかったから、相当なお年だ。
 良くんは初めて僕を見たとき吠えた。次の日、僕が散歩がてらに良くんのところへ行くと、もう、吠えなかった。初めて頭を撫でたのは、またしばらく経ってから。
 僕はここ数年間、会社までクルマで通勤していたが、六月からまた電車通勤になる。良くんは、僕の家から最寄り駅への道のりに住んでいる。毎朝、毎晩、良くんと挨拶をする日々がまた始まる。