さらば

 久しぶりにジャケットを買った。僕が着る服といえば、スーツなどのフォーマルと、あとはカジュアルの両極端に分かれる。世の中には、ビジネスカジュアルという、ちょっとちゃんとしたカジュアルみたいなものがあるが、これまで僕はそこを素通りしてきた。ピシっとしているか、ダラっとしているかのどちらかだ。
 今回はちょっと必要に迫られてジャケットを買ったわけだけど、買いに行くにあたり、合わせるならこれかな? と思うずぼんとシャツを着ていった。今日の福岡は少し寒めだったので、ニットを羽織って行ったが、服屋の駐車場にクルマをとめて、ニットはクルマのなかに置いて店に入った。試着をしやすいようにだ。
 一着、二着、三着、四着と気になるジャケットが見つかったので、それぞれ羽織ってみて見比べた。ずぼんの色とは異なる色のジャケット、いわゆるジャケパンスタイルだ。
 五年前の僕が聞いたら「うへえ」とか思いそうな言葉、ジャケパンスタイル。でも今の僕には案外似合っていた。少なくとも、ダメージドジーンズと古着屋で面白かったシャツ、そしてカーディガンみたいな、完全にボロボロのスタイルよりは、今の僕には似合っていたように思う。そうか、そういう年齢になったのだ。
 初めてそういう考えに触れたのは、塩野七生さんの「男たちへ」シリーズのエッセイか、塩野さんと五木寛之さんの対談エッセイだったと思うが、確かに僕は、汚い格好をしていると、ただ汚いおじさんになったのだ。汚い格好は、若さに似合う。
 服屋で鏡に映るジャケパンスタイルの自分を見て、これも悪くないなと思った。ただ好きな服を着る若さからいい加減に卒業し、似合う服を選ぶようにするのだ。