レオくんだったかな

 駅前の小さな商店にいる白い犬。彼が子犬のころから知っている。犬は、夜間は庭のほうにいるようだけど、太陽が昇っている時間は、玄関横の鎖に繋がれている。
 数年前、クルマ通勤を始めるまでは電車通勤だったので、いつもその犬の前を通って駅に向かっていた。そのため、犬は僕のことを知っているけど、かまってあげた(かまってもらった)ことがないため、懐いている、という感じではない。
 ずいぶん気の小さい(?)、警戒心の強い犬のように思われる。知らない人が通りかかると吠えかかる。ただ、馴染みの人が犬をかまっているところを目撃したことがあるけど、尻尾を振って、ずいぶんとじゃれついていた。だから、何から何まで嫌いな、世界に絶望している犬ではないのだろう。
 今日僕は五十分も散歩をした。途中、神社へ行き、確か百四十四段の階段も上った。神社を後にし、家に帰る途中に、白い犬が見えた。ずいぶん久しぶりなので、犬は最初「この野郎……」というような顔をした。でも、僕が舌をチッチッチッチッと鳴らすと、「ああ……」という、あんたね、とでも言いたげな表情に変わった。ずいぶん久しぶりだけど、頭は悪くないのだ。
 吠えさせないためにいつも舌を鳴らすのだけど、今日はちょっと試してみたくなって、いつもより大きく、親しみを込めて舌を鳴らし続けた。そうしたら犬は、急に吠え出した。でも同時に、尻尾も激しく振り始めた。吠えてるけど、尻尾は振ってる白い犬。
 あれが世に言う、「口ではいやいや言っておきながら、身体の方はもう」というやつか、などと思いながら、今、焼酎のロックを飲んでいる。