初めての冒険で知ったこと

 僕が初めてやった冒険、それが何なのか今考えてみると、確か小学校高学年のとき、ひとりで小倉まで電車で行き、ドキドキしながら街を徘徊し、小倉の駅ビルのラーメン屋で、未知の味噌ラーメンを食べたことであろうと思う。甘い味噌ラーメンだった。
 小学生の時点でひとりラーメンをやっているのはすごいことのような気もするけど、何かあの日は特別だったんだと思う。その証拠に、ひとりで飯屋に行ってモノを食すというのは、それ以降、二十歳を超えてもなかなかに抵抗のあることだった。今では全然平気だけど。
 醤油ラーメンだろうが味噌ラーメンだろうが塩ラーメンだろうが、今では色々な味を知っているけど、とんこつ主体のこの福岡で、味噌ラーメンの味は当時の僕にとって画期的なものだった。いつものラーメンと違う具、太い麺、味噌という調味料が前面に押し出してくる味、甘い味。
 かすかな記憶だけど、僕は初めて食べた味噌味のラーメンというものを、両親に自慢した。冒険のすえ大発見したという心持ちで、あなたたちは知らないだろうが味噌味のラーメンというものがある。ぼくはそれを今日発見した、という気持ちで。
 おもしろい親たちだったのだろう。恐らく1ヶ月以内に、そのラーメン屋に家族3人で行くことになった。息子の大発見を確かめるため。とは言っても、駅ビルのテナントに入るようなラーメン屋。今となっては詳細はわからないけど、適当なチェーン店がなんとなく九州に出店したものだったのだろう。味噌ラーメンなんていくらでも知っていたであろう両親が、大発見のおいしさ! と思ったはずがない。
 息子に紹介されたラーメン屋で、母がどのような表情で食べ、どのような言葉を発したかは覚えていない。ただ、父のひとことは、今でも鮮明に覚えている。
「うん、ちょっと甘い味噌ラーメンやね。酒飲んだあととかに、いいかもしれんね」
 小学生だった僕はこの言葉に、正直であることの正しさと、優しくあることの必要さを汲み取った。
 こうして僕の初めての冒険は終わりを告げた。今になって思えば、同時に初めて、世界を実感した日だったのかもしれない。大げさに言うと。