「変わりたい変わりたい。生まれ変わりたい!」
「どうしたんですか。騒々しい」
「あ、クワガタさん。僕はもう、ほとほと自分に嫌気がさしてきたんです。生まれ変わりたいんです」
「なるほど」
「でもどうしても、自分を変えることができないんです。なりたい自分になれないんです」
「ふうむ。私は昔、ある小説家さんが書いた、こんな言葉を読んだことがありますよ」
「どんな言葉です?」
『人は自ら変わろうとしても、なかなか変わることができないものだ。逆に「もう自分はこのままでいいや」と思うようになると、不思議と人は変わる』
「そうかなあ」
「私もこれを読んだ若いときに、そうかなあと思いました。作家気取りのくそ思わせぶりを書きやがって、と思いました」
「理想をなくした人の話のようにも思えますね」
「まあまあ。でもね、この年になって、変わらないでいいやと思うことで変わっていくってことが、少しわかってきたんですよ」
「そうなんですか」
「変わらないでいいやってことは、もう、このままの自分でいいや、人にありのままの自分を見てもらえればそれでいいやってことなんです。ほんとにそういうふうに思えたならば、最高に生きるための、最高の変化ではないでしょうか」
「あなたのその言葉こそ、作家気取りです! くそ思わせぶりです! ぴんとこないです! 僕は、自分で決めて、一生懸命がんばって、見事なカブトムシになりたいんです!」
「そのうちわかりますよ」