静かに前を見つめて

 幸いにも、クルマを運転するようになって今まで、犬猫をひいちゃったことはないんだけど、なんどか遭遇したことはある。犬と猫ではやはりだいぶ違いますね。犬はクルマ道に飛び出してくるとき、「えへへ、あ、クルマ、これ恐いやつね、えと、あ、あぶない? よけたほうが、ちょっと近づく? 渡っていい?」みたいな感じで出てくるけど、猫はもうほんとに、「しゃー! 行ったれー!」って真っすぐに、歩道の段階から全力疾走で車道を横切る。猫って馬鹿だなーって思ってたんだけど、よく考えるとあの必死な様子は、犬と同じように危ない道を渡るってことがわかっているんだな。わかっててああしているんだ。だから猫が犬に比べて馬鹿なんじゃなくて、精神性の違い。いちかばちか、のりかそるか、ちょっと様子見る?
 でもこのあいだ、小倉の中心街で珍しい猫を見た。デパートの駐車場近く、交通量の多いところで、歩道からとことこと横断歩道に向かっていたから、「危ないな」と思ってちょっと目を伏せたりしていたんだけど、どうも車道に小さな物体が飛び出す様子がない。ちらっと見てみると、ちゃんと横断歩道の前で一時停止していたよ。さすがに左右を確認したりはしていなかったけど、しばらく前方を静かに見つめて、クルマの気配がなくなってからゆっくりと渡っていた。慎重な子だなと思ったけど、左後ろ足を引きずっていたから、事故の経験がそうさせたのかもしれないね。