メンラー

今日食べたラーメンは相当うまかった。久しぶりに「うまい」とひとことで言いたかった。
僕には十代のころ、二軒の好きなラーメン屋があった。二軒とも完璧と思えるうまさだったんだけど、そのうち一軒はご主人が亡くなって無くなってしまった。二年半前僕が福岡に帰ってきて、一度か二度その懐かしい味を堪能したあとなくなってしまった。ではもう一軒のほうはどうかというと、このラーメン屋は今も健在なのだが、実家に帰ってきてからときどき行っているものの、「完璧だ」と思えるほどうまくはないのである。つまり味が落ちてしまった。いや、もしかしたら僕は東京で暮らしている間に、そのラーメンを美化しすぎてしまったのだろうか。会えない間に思いはどんどん美化されていくものだ。そして実際久しぶりに会ってみたら、「あれ、こんなもんやったっけ(君の顔)」みたいな。それでもまあまあそのラーメン屋はうまいので、今日行った街に行ったときには、ちょくちょく食べていた。うん、まあまあだねと思いながら。
しかし今日は違ったのである。最初にひとくちスープを飲んだ段階でわかってしまった。わかってしまったが、特にあせったりせず、落ち着いた気分で麺や具も一通り食べてみる。それからまたスープを飲んで「間違いない」と。なぜか以前の完璧な味に戻っていたのだ。昔の味に。今までは、すごくうまそうな雰囲気が感じられるラーメンなのに、おいしさの芯が一本抜けた、なんだかふやけたラーメンだった。それがおいしさの芯がガツンと通り、そのまわりをおいしい雰囲気が包み込んでいるといった感じに戻った。まさに十代のころに食べた味。なんでこうも突然戻るんだろうと思いつつ、そこのラーメンは日によって微妙に味が違ったりするので、もしかしたらまぐれかなとも思った。まぐれだったらこの味はもう今日しか食べられない。「ご主人。今日のは抜群においしい。この味覚えといて」と思わず言いたくなった。