我慢できないのではなくて別れが辛い

僕が今まで見聞きした禁煙のパターンは、
「禁煙から一週間まで吸いたくて吸いたくてたまらない(←でもみんなここを必死で我慢して乗り切っている)」
「禁煙から十日後くらいから『不思議と吸いたいと思わなくなったよ』などとぬかしだす」
「それなのに一ヵ月後、なぜかスパスパと吸っている『禁煙? なにそれ』状態」
最初の苦しい一週間は乗り越えられるのに、「吸いたいと思わなくなった」のあとに何かあるみたい。
で、最近僕の友達で禁煙を始めたのが三人いて、一人は最初の一週間、吸いたくて吸いたくて、で脱落。でも残りの二人はもう二週間くらい禁煙してて、今「全然吸いたいと思わないよ」などと言っております。このあとに、何かが起こる。
僕が思うに、禁煙の辛い時期を乗り越えたあと「吸いたいとは思わなくなった」と同時に、「このまま吸わないでいられそうだけど、ほんとにもう私は一生吸わないのか……」と、寂しさがこみ上げてくるんじゃなかろうか。実は僕が禁煙をしない一番の理由はそれで、最初の苦しさを乗り越えて一ヶ月ほど経ち、たとえそのままタバコを辞められそうになったとしても、そのまま一生お別れできるだろうかと思っているのである。
というようなことを、二年半前東京を離れるときに、飲み屋で友達と話した。その友達は中学高校の同級生で、そのときも今も千葉に住んでいる。彼と僕はぶっちゃけ中学三年のときからタバコを吸っていたのだが、二年半前久しぶりに会ったとき、彼はすでにタバコと縁のない人になっていた。
「タバコやめたの? いつ?」
「三年くらい前。簡単にやめられたよ」
「俺もやめることはできそうなんだけど、例えば……」
「例えば?」
「タバコをやめて数ヶ月、ある日バス停に着いたらちょうどバスは行ったばかり。目の前には灰皿。懐かしくならない?」
「全然ならない」
「二年ぶりに好きなバンドがニューアルバムを出した。今それを買ってきて CD をかけるところ。懐かしくならない?」
「全く」
「大学の同級生何人かと久しぶりに会い、海岸近くの飲み屋で飲み明かす。早朝になってなぜかみんなで海岸に行くと、綺麗な朝日が昇リ始めている。懐かしくならない?」
「全然」
ううむ。この彼はわりと執着がないというか、どちらかというと少数派だと思うんだけどどうだろう。でもこの人のように、懐かしさや寂しさを感じないでいられるなら、タバコをやめようかなという気持ちもある。