朝、駅前の白いふさふさの犬が、初めて僕にリラックスした顔を見せたように思う。神経質な犬。
 いつものように小倉駅の喫煙所で一服して会社に向かうも、なんとなく手元がものたりない。気がつけば、傘を喫煙所に忘れてきたのであった。戻って再び改札をくぐり、傘を取りに行けなくもなかったけど、だるかったので「帰りまで預かっておいてくれ、駅よ」の気分でそのまま会社に向かう。
 昼ごはんは会社の弁当。穴子の天ぷらとか。おいしかった。
 仕事のことは軽く考えるようにしていて、そのためになかなか好調だ。だけど軽く考えているので、緻密な仕事とは言えない。そのうち軽く緻密になっていくだろう。
 帰り。小倉駅の忘れ物窓口にいけしゃあしゃあと向かう。私が忘れておいた傘を受け取りに来ましたよ、という心持ちで。しかし忘れ物窓口には先客がいた。あまり近くで話を聞いては失礼かなと離れていたけど、それでも、朝スーツケースを特急列車に置き去りにしていたらしいことはわかった。五十歳手前くらいの、わりとイケてる感じのおじさんだった。そのスーツケースは無事に届けられていたようで、本人確認などのちょっとした手続きをしたうえで、おじさんはスーツケースを受け取った。だけど僕を待たせているという焦りがあったのか、「どうもありがとうございました!」とそそくさと去ろうとし、スーツケースはさすがに忘れなかったけど、持ってきた新聞を忘れて立ち去ろうとしていた。係の人が「あ、新聞忘れてますよ!」と声をかけ、三人で笑った。僕はたかだか傘の忘れ物で、しかも預かっといてくれマインドで申し訳なかったのだけど、無事僕の傘も届られていた。「どんな傘ですか?」という質問に「紺色で大きな雨傘で」とか色々応えていたのだけど、「柄の部分のビニールが中途半端に剥ぎ取られています(神経質な人ならすごく気持ち悪い感じですというニュアンス)」と言えたのはよかった。いつかこんな日が来るんじゃないかと、中途半端にペロペロになった柄の部分のビニールを見て、昔思ったのだ。そのままにしておいたのだ。