花びらの証

 山肌にぽつぽつと、単独で咲いている桜が好きだ。桜は挿し木でしか増えないというから、かつて誰かがその場所まで行って、枝を挿したということか。
 よくある桜並木ってのは、どの場所でも、昔の“誰かたち”が計画的に作ったものだろうが、ぽつんと咲く一本桜は、昔の“誰か”の、さわやかな思いが感じられていい。
「どうしてあんなところに一本だけ……」
 桜の下には死体が埋まっているというけれど、あなたの願い、思い、あるいはいたずら心が、後世の人にそんな思いを抱かせています。
 ひとつ歳を重ねました。俺も何処かに桜を植えに行こうかな。