花、土、空気、真空

 ここニ、三日、親父がやたらと家の外壁をとんとん叩いている。なにしてんだろと思ってたら、明日家をチェックする業者(シロアリとか)が来るんだと。それで色々事前に点検してたのかーと納得しかけたけど、よく考えたらあんたに建築の何がわかると言うんだ。
 昼食にざるそばを食べた。いやいやこういうのがおいしい季節になりましたね。まだちょっと早いか。いつものようにつゆの器にわさびを少々と大量のネギを入れた。僕はネギがとても好きで、ざるそばを食べるときはそば食ってんだかネギ食ってんだかわからないくらいネギを入れる。
 前、なんかの本で「ツウなざるそばの食い方」ってのを見た。たしか引き上げたそばの下のほうだけにつゆをつけて食う、ということだった。食べているときに急にそれを思い出してやってみたが、それほどおいしくは感じられなかった。たぶんいいそばでやれば、そばそのものの味が感じられておいしいんだろう。


 いろんなタバコのパッケージがアレな理由で爽やかなイメージのものに変わっていっている。昔と変わらないものの代表格といえばセブンスターか。
 先日自販機でハイライトを見つけた。ハイライトを見かけたのは久しぶりな気がした。ハイライトは僕にはちょっと重過ぎるタバコなんだけど、パッケージが昔のままのいい感じのやつだったので買ってみた。しかし出てきたハイライトを手に取ると、たしかにパッケージは昔のままだったが、表も裏も「警告」で塗りつぶされていた。全ての車に「排気ガスが出ています」と書かれている世界を想像した。
 今日もまたその自販機の前を通りかかったので、今度はショートホープを買ってみた。ショートホープは以前のままのかわいらしいデザインだった。僕は日に十本くらいタバコを吸う。吸いたい、と思って吸うのだけど、二、三口吸うと結構満足してしまう。でも普通のタバコは二、三口では無くならないほどに長い。だからショートホープの短さは結構いいなと思った。ほんとはキセルできざみタバコというのをやってみたい。清々しくてこれこそ一服という感じらしい。でもそれはもう少し僕という人間が熟してからやろうと思う。


 街の桜は散ってしまったが、山を見るとピンク色の部分がぽつんぽつんとある。山の桜はひとりで生きている。険しい山の中に入っていって、苦労して一本の桜の木の下に辿りつく、という想像をした。山の中で一本の桜の木を見上げているところを想像した。
 山桜という言葉に覚えがあって、誰か歴史上の人物の辞世の句に使われていたような気がすると思った。辞世の句という習慣は結構いいなと思う。自分はまだ死ぬつもりはさらさらないけれど辞世の句というものを作ってみたくなった。しばらく考えてみたけど何も思いつかなかった。句など詠んだことがないので当たり前だ。それでもなんとなく考え続けていると、ふと、思いついた瞬間死が訪れるような予感がしてあわてて考えるのをやめた。