呆然

 ガキのころ、間違い電話をしてしまうことは結構恐怖だった。友達の家に電話したつもりが、さっきまで小学校で一緒だった友達のでも、聞きなれたおばちゃんのでもない声が受話器から聞こえてくる。全く知らない大人の声が「はい、○○です」などと言う。僕は間違い電話をしてしまったときはいつもびっくりして、無言で電話をきっていた。
 しかし大人になった今では、ちゃんと「あ、どうもすいません。間違えました」と言って電話をきる。間違えただけでむちゃくちゃ怯えていたガキのころが、少しなつかしい。
 でも、間違い電話をしても全く平気になったわけじゃない。「すいません」と言いながら、「間違えちゃった」って恥ずかしさは今でもあるのだ。
 そして今日の昼下がり、僕の部屋にかかってきた間違い電話。
「もしもし、○○さんのおたくでしょうか?」
「いえ、違いますけど」
「あら(ガチャン)」
 ババアの声だった。怯えを卒業したあとは恥じらいを感じ、最終的には何も感じなくなるのかなと思ったり。