冷めたピザ

ピザの生地だけが冷蔵庫に何枚もあり、どうやら両親はその生地の上にチーズやらなにやらを乗せてピザを作り、さきほど(午後十一時頃)がつがつと食べたようである。僕がキッチンにコーヒーを作りに行くと、ちょうどピザを食べ終わった母親と一緒になり、冷蔵庫を開けてピザ生地のこと、何を乗せればいいか、コンロの魚を焼くところで弱火で六分などと詳しく解説された。だが僕はたいして興味もないといったふうに「うん、うん」と答えるだけで、子供のころからピザが好きだったはずの僕の言葉の意外なつれなさに、母は「あっそ」という表情をしてみせたあとリビングにひきかえしたのだった。食べ物の好みが変わったとでも思っているだろうか。
変わったのは食べ物の好みではない。今、居間で話している二人のうち母親のほうはいわゆる「食べても食べても太らない人」であり、僕も昔はそちらに属していた。だがどこで体質が変化したのか、今では父親と同じく「食べたら太る人」である。そんな僕は数日前に「晩御飯を食べたあとは寝るまで何も食べない」という誓いを立てたばかりであり、変わったのは初めて食べたあの日から今日まで続く「ピザが好き」という気持ちではなく、僕の体質なのであった。
ピザの肩代わりをさせられることになったコーヒーを必要以上にちびりちびりと飲みながら、僕は今、キッチンに漂っていたチーズのこげた香ばしい匂いを思い出している。