またたく恒星

 靴好きは親父の遺伝なので、僕が新しい靴を買うと、親父は必ず反応する。こないだ僕が買ったのはブーツなので、自然とブーツの話に。
 親父が今一番気にいっているのは、「よくわからないけどイタリア製の1万ちょいくらいのブーツ」らしい。でもソールが磨り減ってきて、ソール全とっかえするかどうか悩み中らしい。
 去年僕は、もう15年近く履いたイギリスのブーツのソールを全とっかえしたんだけど、修理費用が1万ちょいかかった。そのことを親父は知っているので、1万ちょいのブーツを1万ちょいかけて修理するのもなー、と思っているらしい。
「それやったらもう新しいのを買ったほうがいいやろ?」
 と言われて、まあ確かに10年20年と履けるいいやつ買えば? と思った。
 思ったんだけど、親父にとって10年20年は、それはもうほとんど一生なんだなって唐突に気づいたんだよな。ショックを受けたりはしなかったけど、なんだか愕然とした。同じ家に住んで、同じモノ食って、同じような人間性も持ち合わせていて、同じように靴好きで、(僕が思う限り)今では二人とも大人なのに、この人と俺で、こんなに違いがあるのか、って。
 霧を突き刺すように、空には星が瞬いている。瞬かないのが惑星で、瞬くのが恒星だと知ったのは、いつだっただろうか。