やさしい地獄

 1tトラック五台分。


 今年はスギ花粉がすごいらしい。なるほど言われてみれば、まだ花粉は飛んでいないけど裏山(!)のスギの色が濃い、ような気がする。ちょっと健康馬鹿家族みたいだが、うちには花粉症の人がいない。でも花粉症ってのは、ある年の春に突然なるものらしい。今年はいつもの年よりたくさん花粉が飛ぶらしいから、「今年から」って人も出てきそうですね。そのひとりになりませんように。
 それにしても花粉症は、ここ十年くらい(?)で一気にメジャーになった。大昔にもなんぼか花粉症の人たちがいたみたいだけど、まだ花粉症というものがあまり知られていなかったから、結構社会の無理解とかあったらしい。「鼻水が出て目が痒くてくしゃみが出てきついんです……」「お前もう三ヶ月もそんなこと言ってるじゃないか。仮病?」みたいな。
 とまあそんなこともあっただろうが、昔より今のほうが花粉症の人が多いのは確かである。昔僕が「なんで増えたのかねえ」と言ったときに、その理由を華麗に説明してくれた人がいた。こんな感じ。
「スギってのは頭のいい木なんだよ。日本は自然をどんどん壊して、スギの木の数も減ってるんだ。そこでスギは、自分たちの種を守るために、昔より花粉を大量に飛ばすようになったんだよ」
 僕はそのとき、「ははあ」と感心した。だけど最近新聞などを読んでみると。
「政府の政策で、数十年前にそこかしこの山々に大量にスギの木を植えた。スギの木は本来ちゃんと管理をしなければならないのだが(間引きをしなければならないのだが)、ずっとほったらかしの状態である」
 全然違うじゃないか。
 日本には四季というものがあって、人に好きな季節をたずねると実にさまざまな答が返ってくる。ただ、「この季節が好き」とひとつの季節を答える人でも、やっぱりどの季節もいいなあという気持ちがあるんじゃないだろうか。と思ってたんだけど、やっぱり花粉症の人にとっては、春は問答無用で地獄の季節みたいである。長い冬が終わって暖かくなり、なんとなく世間も浮かれ気味のやさしい季節に地獄とは。